ミスティック・リバー

主演・ショー・ペン/ケビン・ベーコン/ティム・ロビンス
アカデミー賞確実13誌・最高傑作11誌・最高の演技13誌・驚くべき脚本11誌・絶賛23誌。全米でこれだけの評価を受けたこの作品。一語で言えば「凄い」の一言に尽きる。何が凄いのか、一語では言えない。ショー・ペンの演技が特筆ものだ。「Iam Sam.」の演技から180度転換したような役柄、知的障害を持った頼りない父親役から、今回は愛する娘のために容疑者を殺す父親役。あまりにも対照的過ぎて、それだけに、その演技の幅に凄さを感じる。勿論、「激流」「告白」で好演したケビン・ベーコンの名演も凄い。「ショーシャンクの空」で好評を博したティム・ロビンスも難しい役どころを見事にこなした。3者3様に見事に演じてこの映画の凄さを増した。いえば3人の主役級が1本に出ているのだから凄いはずだ。それもそのはずで3人とも監督を手がけている俳優だから作品に重厚性が増すのも当然といえる。
 監督は日本ではお馴染みのクリント・イーストウッド。その昔、マカロニウエスタンで日本にデビューした俳優が年月を経てここの至るのだから、やはり日米の映画の文化の違いに脱帽せざるを得ない。演技者をその役どころに合わせて抜擢する映画作りと、何年経っても演技に関係なく有名人を使う日本映画とではポリシーが違うといっても仕方がないだろう。同じ商業ベースといっても根本のところで違うようだ。
 映画を見ている途中で、観るのが辛いほど怖くなってきた。それは人間の心の葛藤や人事を描いてのことで怖さを感じたのだから尚更、凄いといえる。決してホラーや恐怖映画仕立てではない。観ているものも誰も悲鳴などは上げない。過去何本の映画をこの50数年間に観てきたかは不明だ。しかし、これほど信憑性をひしひしと感じさせられて「怖い」と思った映画は他にはない。原作の良さもさることながら、それを映画としての作品に仕上げたスタッフの実力なのだろう。俳優陣も見事の一語に尽きる。女優、脇役、子役。全てに完璧を求めたイーストウッドのこだわりが映画に出されたのであろう。音楽も的確に映像とマッチしていた。それがまた、怖さを増したのであろう。部分的にイーストウッドが作曲した曲を使っていたというから、これもまた凄いといわざるを得ない。ベストスタッフとベストキャストが創るドラマの深み、映画の深みを思う存分に満喫堪能させてくれる映画。見ごたえがある映画と簡単に片付けられないほどの凄さを感じさせてくれた。おそらく、繰り返し、繰り返し見るほどに良さが変わる映画といえるかもしれない。これはクリント・イーストウッドそのものなのかも知れない。
 ベストスタッフ・ベストキャストの主役は言うまでもなく「人」である、映画も教育も、「人」そのものが主役でなければならない。凄いマニュアル・凄いノウハウがあったとしてもそれを演じる「人」に実力と情熱がなければ、血が通わない。無機質な逸品などは存在しないはずだ。人間臭さ、体臭こそ人間の魅力かもしれない。教育も正にその通りで、「ノウ・フー」としての主役、誰が教えるかということが大事なのではないだろうか。こだわりのある臭い教育、それが個性ある人間を創る教育に繋がるのではないだろうか。一本の映画でそう考えさせられた。