朝日新聞夕刊より


古い町並みが続く岐阜県高山市上三之町に到着したザップさん一家=今月14日、岩田写す
  
 クラシックカーで世界一周を夢見るアルゼンチン人の一家が日本にやってきた。夫婦で旅立って足かけ10年、その間に4人の子どもをもうけた。自炊し、車で寝泊まりする日々。ぜいたくはできないが、のんびり旅と人生を楽しむ一家に、旅先で出会った人たちはひかれ、応援の手を差し伸べている。
 ブエノスアイレス出身の元電気技師ヘルマン・ザップさん(42)と妻のカンデラリアさん(40)がブエノスアイレスを出発したのは2000年1月。4年かけてアメリカ大陸を縦断。アルゼンチン国内の旅行を経て、07年4月にアジアに向けて出発した。
 車はザップさんが一目ぼれし衝動買いした1928年の米国製グラハムページ。タイヤホイールは木製で、ワイパーは手動。クラクションにはロバがいななく声を仕込んである。子どもが生まれ手狭になったからと、旅の途中で車を切断し他の車体を継ぎ合わせて車長を40センチ伸ばした。
 年に数回は故障するが修理代を払ったことは一度もない。コロンビアからパナマ、ニュージーランドから韓国と、過去6回、船で海を渡った時も、お金を払ったのは一度だけ。ある船長は「夢の一部を引き受けられて光栄だ」と言ってくれた。ザップさんは「この世は神がつくった以上にすてきだよ」。
 アメリカ大陸縦断では、絵を描いて路上で売り、食いつないだ。その後、旅をつづった本を出版。旅行資金は本の売り上げと、旅先で写真入りカレンダーを売ってまかなう。全財産は4千ドル(約34万円)ほど。
 韓国・釜山から8月、フェリーで福岡市に到着した。途中立ち寄った愛知県岩倉市のバイク店経営伊藤卓司さん(40)はカレンダーを買った。「彼らのような旅にあこがれるけど、僕には無理。だからこそ、世界一周の夢をかなえて欲しいし、少しでも力になれたらうれしい」
これまで約30カ国、20万キロ以上を旅した中で印象に残った場所の一つに、ザップさん夫妻は長崎と広島を挙げる。カンデラリアさんは、広島の平和記念資料館で焼け焦げた三輪車を見た途端、涙がこぼれた。あの瞬間まで無邪気に遊んでいた子どもがいたんだと実感したという。
 子どもは8歳から1歳までの3男1女。長男(8)はインターネットの通信教育で学び、ザップさん夫妻も車内で読み書きを教える。カンデラリアさんは「それぞれの土地でいろんなものを見て、人の優しさに触れ、偏見を持たず接することを学んで欲しい」と語る。
 今後は、フィリピン、タイなどを回り、インドを目指す予定だが、長男が10歳になったら、ひとまず旅を中断するという。ブエノスアイレスに戻ったら、もう一つの夢である、旅行者を温かく迎えられる宿の建設に取りかかるつもりだ。(岩田誠司)

この記事を読んだ人にはそれぞれの十人十色の反応がある。
私はというと・・・
あと2年、彼等が経営するであろう『宿』に泊りに行こう!と心に決めた。
神戸でお会いする機会があったのなら1週間ぐらい泊めて上げられたのに残念です。