光と影






渡辺淳一の直木賞受賞作


30代後半にこの本を読んで
その後の人生において、ものの見方・考えた
人生について、強く影響を受けました
渡辺淳一の評伝ものは傑作が多く
その人物から多くを学びました

今、人生とは?
そう思われる方 ゼッタイ お薦めです



西南戦争(1877)に従軍し、共に右腕を負傷した陸軍大尉・小武敬介(作者が創造した人物か)と同期の寺内寿三郎(後の正毅。実在の人物)は大阪臨時陸軍病院で佐藤進外科部長から同じ日に手術を受ける。当時の医学水準では、切断が生き延びる唯一の方法だと考えられた。ところが、佐藤軍医はドイツの医学書に出ている腕を切断しない治療法の「実験」をやってみる気になった。小武は普通の切断手術、寺内には腕を生かす手術を施された。苦痛の大きさと治癒期間の長さは寺内のほうが圧倒的であったが、機能的には不全だがともかく寺内の腕は残った。小武は片腕となった。二人はその後対照的なまさに「光と影」の人生を送る。


選考委員 評価 行数 評言
川口松太郎 ○ 34 「構成が巧みでうまく仕組まれた作品だ。」「二枚のカルテから始まる宿命の明暗を淡々と書き分ける描写力は非凡である。影にいる男が発狂して精神病院へ送られる肝心の最後が早口の説明に終ったのは残念だった。」
石坂洋次郎 △ 13 「着実な筆致でよく描かれている。」
海音寺潮五郎 ◎ 16 「調べがよく行きとどいており、描写が的確であり、医学的面は作者の職業がら自信に満ちており、水際立って見事な作品になっている。これまで度々候補に上っている人だから、実力のほども信じてよい。」
源氏鶏太 □ 11 「確実に腕を上げて来ているという点が大いに買われた。」「私にはもう一つ迫ってくるものが欲しかった。」
柴田錬三郎 □ 9 「二枚のカルテが、先になるか、あとになるか、によって、その人生が大きく狂ってしまう、という思いつきが面白かった。しかし、この作家もまた、すでに、雑誌ジャーナリズムでは、大いに売れている人であった。」
村上元三 ◎ 12 「結城氏に併せて授賞とわたしは推した。作者は医者だが、これから作家を兼業して行くには相当な努力が必要であろう。この作者の作品には、波があるし、そこに危険が感じられる。」
今日出海 ○ 12 「あり得る人生行路の両面を描いているが、そんな因果の図式を越えて、人間の、あるいは人生の明暗を語って作品を結晶させている作者の執拗な目を私は評価した。」
水上勉 ◎ 24 「今回の作品は「訪れ」「霰」の密度はない。しかし、カルテの置き順によって、人生が書き換えられてゆくという思いつきは卓抜だし、よく二軍人の人生を追跡し、文章も簡略なのがまた効を奏しているようにも思われた。」
松本清張 △ 23 「これまでの氏の作品の中ではいちばん出来がよい。」「だが、委員会の席上で、私は渡辺氏のは今期を見送り、もっと長いのを期待したいと云った。」「この作品の短篇的な長所は、同時に欠点にもつながっている。」
司馬遼太郎 ◎ 12 「感服した。軍人というのはときに精神医学の対象になりうる職業で、その特有の出世欲がなにかの条件で絶たれざるをえなくなるばあい、他の職業人にないヒステリー症状をおこす症例が古くからヨーロッパで観察されているそうだが、この作品を読んでそのことを思い出した。」
選評出典:『オール讀物』昭和45年/1970年10月号

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