ミリオンダラー・べイビー

主演/クリント・イーストウッド(監督)
 第77回アカデミィー賞主要4部門受賞。作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞。
ゴールデングローブ賞主要2部門受賞。最優秀監督賞・最優秀女優賞。
主演のヒラリィー・スワンクは見事に10冠王に輝いた。作品としての脚本が素晴らしかったの一言に尽きるが、彼女の演技が秀逸だった。2度目の主演女優賞は立派だが、前作の「ボーイズ・ドント・クライ」は99年に合計20の賞を総なめにしたものだが、これは性同一性障害の役を熱演したものだが、多分に社会性・話題性が受けたものである。今回は正真正銘の受賞といえる。94年に「ベスト・キッド4」で主役を演じたあの子がと思うと、努力もさることながら運がいいのだろうと肯いてしまう。
人間が生きる世界には<不条理>なことが起きうる、なぜこんな酷いことを、なぜこんなにも非道なことが、この作品もミリオンダラーを掌中に納めようとする瞬間に、思いもよらない不幸に見舞われる。それも事故や災難であれば、許されもし諦めもつこうというものだが、悪の力によって不条理が起きると許せないと思ってしまう。映画を見ている者すべての人が、「なんて酷いことを」と悲しませ憤怒させた所にも、この映画の成功がある。ましてや「尊厳死」と簡単に片付けられない結末は、映画を見終わった後々まで、尾を引いて考えさせられる。「私がヒロインだったらどうするだろう」「私がイーストウッドの立場だったら」。映画というフィクションに引き込んで現実の自分の問題として考えさせる、そんな映画は簡単には作れない。ここは映画人、クリント・イーストウッドに心からここ讃辞と敬意を表し拍手を贈りたい。
クリント・イーストウッド、75歳。TVシリーズ「ローハイド」で日本でもお馴染みになり、「荒野の用心棒」でマカロニウエスタンのスターとして地位を築き、「ダーティ・ハリィー」で、ハリウッドのドル箱スターの座を不動のものとした。ここまでだとアクションスターとしてのイメージが強いのだが、後86年から2年間、カーメル市長をしてから、これがキッカケだったのかどうか、見事に変身した。今や、アメリカ映画界になくてはならない存在となっている。男75歳にして、人生の『旬』を迎える生き様は尊敬に値する。おそらく彼は映画に生き映画に死んでいくのであろう。その生き様も「映画 クリント・イーストウッド」を演じ続けて行くのであろう。助演男優賞に輝いたモーガンフリーマンは、今や名俳優、名助演俳優の域に到達しており、その存在感たるや出てくるだけで映画が映画になる。この3人のこれからが楽しみでしょうがないと思わせた。
クリントが演じた役柄は、ボクサーを育てるという指導者の立場。いかに指導者が大事であるか、すべては指導者次第であるということがわかる。そこには指導者としての魂がある。命をかけた思い、それが育てるということにおいて一番大切なことである。中途半端では、時に害になることもあるということを教えている。芸術が死に物狂いの産物であるならば、教育も命がけでやらなければ成果は、そう易々とは出せない。そのような真髄をラストシーンで見たような気がする。