タイムリミット

主演 / デンゼル・ワシントン
『男は時に馬鹿なことをするもんだ』『妻に対する矛盾した甘え』。この二語が、この映画の極め付け。私はここの所で深く感動した。男の本音がサラリと表現された。頭では十分に判りきっていることで、しかも、子供でも判断できそうなことをやってしまう、なんとも言えぬ、どうしようもない「男の性(さが)」。このせりふは本当に秀逸だった。
実をいうとここでこの映画が終われば100点だったのだが、付け足しの5分があったために、80点になってしまった。ハッピィエンドが大好きなアメリカ人はエンディングをハッピィにしないと気が済まないらしい。余情という言葉がないのかも知れない。この後どのようになって行くのかというストーリイーを見る人に委ねるのではなく、「こうだ!」と決め付けてしまう。その分、広がりがない。観る者の楽しみがない。「The End」とともに余情まで断ち切られてしまうのは寂しい限りだ。鑑賞後に考えさせるということがない。連れ立って映画を見に行った時は、お互いに「ああだ、こうだ。あれから二人はこうなるだろう」と観た人の感性でいろいろなことを想像し語るのも、映画の一つの楽しみなはずだ。あの終わりかたでは、「うまくいって良かったね」「うん」で終わってしまう。
しかしながら、「実に面白い映画だった」小中学生の感想文だと、この一語で終わってしまう。何が良かったのかと言えば、息をつく間もあたえないスピード感あふれるスリリングなノンストップ・サスペンスと評価できる内容が良かった。無意味なアクションはなく、暴力的なシーンもないのに静的にハラハラドキドキさせられる。アメリカの各紙・誌は“意外性に満ちた上質のサスペンス”“巧妙なトリックに気持ちよくだまされる”“クライム・サスペンスのジャンルを一新してみせた”“ありきたりなサスペンスとは格が違う”という評価はその通りに受け止められる。共演女優のエヴァ・メンデスの魅力もデンゼル・ワシントンに負けず劣らず光彩を放った。ラテン系セクシー女優としてスターダム急上昇中。それもその筈で、モデル出身でレブロンの専属モデルでありGAPのイメージキャラクターもつとめているのだ。もう1人のサナ・レイサンもアフリカ系の黒人女性の魅力に満ち溢れ重厚な演技が輝いた。イェール大学演劇科で演技を学んだ素養は並ではなく、デンゼルの演技にも決して引けをとらなかった。イメージ賞主演女優賞も伊達ではなく、いぶし銀のような落ち着いた輝きが心地よかった。
面白い映画、面白い授業。今の子供たちは単純に面白さを求めている。ニーズに応えるという姿勢であれば、シンプルな面白さの中に教育の想いを入れるべきであろう。本来、勉強は面白いという性質のものではない。学ぶ喜びは艱難辛苦と努力の結果によって得られる。なんていっていると合わないのではないだろうか?面白さの中に提供する側が工夫して、勉強の中にスリルとサスペンスを盛り込むことは不可能だろうか?授業の中で、「当てられる、当てられる」とプレッシャーをかけておいて見事に外し、ホッとさせる。難問を9割まで解いておいて後は自分で解かせるという中にスリルのようなものはないのだろうか?塾の目的が果たせるならばエンターテイメント授業も○だと思う。